流産手術と不妊症について

デヴィ夫人の、「不妊の原因は堕胎」という発言がテレビ番組でありました。

https://www.j-cast.com/2020/10/27397540.html

 


現在、7組に1組のカップルが不妊症であるとされています。また、体外受精で生まれた子は14人に1人と、不妊治療で生まれる子は割合として増加しており、稀なことではありません。

 


今回の「不妊の原因は堕胎」という発言は、現在治療中の方が堕胎の経験者であったり、それを隠しているというものであり、妄言レベルで許しがたいものですが、それとは別に、流産手術に関して「この手術を受けることで妊娠しにくくなりますか?」という質問は実はよく受けるものであり、一般的に「流産手術は不妊の原因となる」説はそこそこ浸透しているのではないかとも思います。

 


これは、「アッシャーマン症候群」という病態のことがなんとなく広まったのかもしれませんので、少し解説が必要かなと思った次第です。

アッシャーマン症候群というのは子宮内癒着症からの不妊症や不育症の原因となるものですが、実は産婦人科医を20年ほどしていても「あーこれアッシャーマン症候群っすねー」という診断をしたことはありません。教科書ではみたことあるんだけど。年間報告数100に満たない件数だからまぁそんなものかも。

https://ameblo.jp/matsubooon/entry-12107797858.html

上記の生殖専門医の先生のブログにもう少し詳しく書いてあります。

 


ガラパゴス化していると言われる日本の流産手術ですが、実際は昔ながらの掻爬手術は、現在は吸引法に取って代わられつつあり(吸引法の方がアッシャーマンは減ると思われます)、手術数自体が減っていることから、さらに減ると思われます。

よって、掻爬にこだわる産婦人科への受診はあまりおすすめしませんが、流産手術を受ける際に「今後不妊になるのでは…」という心配はほぼしなくてよいものです。

ただしゼロではないので、当然産婦人科医側ではアッシャーマン症候群を作らない努力やスキルが求められます。

 


また、今回のデヴィ夫人の発言は「堕胎」という本来犯罪である行為の言葉を使っているのですが、人工妊娠中絶もそうではない流産手術も、方法は一緒です。ので、デヴィ夫人の発言が正しいならば、人工妊娠中絶だけでなく流産手術を受けた方も不妊になってしまいますが、そこには言及がありませんでした。

・彼女は正しく理解して発言しているわけではない

不妊患者への著しい誤解や偏見がある

・望まない妊娠はどのような避妊法を使ってもゼロにはならず、人工妊娠中絶は女性の権利であるという認識がないために、中絶を選択した人に懲罰的な意識があるのではないか

・中絶を隠しているという陰謀論的な「知識」

により冒頭の発言が生じたのであろうと思われますので、今後正しい理解の進むことを願っています。