内診台と患者さんの思い出

産婦人科での内診では思い出があって、あれはまだ私が産婦人科医になる前の初期研修医だった頃。

子宮頸がんの末期の方がいて。その方は、腺がんという、やっかいなタイプで、元々は全国有数の施設に通院していた方だった。

 


彼女は最初に診断を受けた後、A病院に紹介された。いくつもの内診台が並んだ内診室で、股を開いたまま婦人科医の内診を待つ。

それが終わると、同じ病気の人を全員集めて治療の説明が始まった。

彼女は、自分が人として扱われていないと感じ、手術をキャンセルし、標準医療そのものから遠ざかってしまった。その後、信頼できる医療者と出会い、治療には結びついたが遅かった。それでも、自分のようなことを繰り返して欲しくないと医療者や学生向けに講演をしていた。

 


私が出会った頃、彼女の尿管はすでにがんに蝕まれていて、体の外から尿を出すための管を入れていたし、足は象のように浮腫んでいて、移動もままならなかった。管の交換の時に痛みその他苦痛を伴うが、担当の泌尿器科医には思っていることを言えないという。

「思ってることを言ったらいいじゃないですか」と若い私が言ったら、「先生、患者はね、そんなに思ったことを言えないのよ」と彼女は答えた。そんなものかなあ、患者と医師は対等と習いましたが?あなたも講演で熱く語られていたではありませんか?とその当時の私は思っただけだった。

彼女は私が産婦人科医になってほどなく亡くなられた。

 


その後長い時が流れても、未だに私はショックを受け続けているんだと思う。

婦人科医の行動が患者の医療忌避を招いたこと。命を落とされたこと。

何かのおりに、ふと、「先生、患者はね、そんなに思ったことを言えないのよ」という彼女のセリフが脳から流れてくる。

たいてい患者との関係は良好なのだけど、それでも目の前のこの人はもっと言いたいことがあるのかもしれない、こんなこと言ったら不利益を被ったり関係が悪くなるかもしれないと飲み込んでいるのかもしれないと思う。医療忌避の人は、過去にひどく医療機関で嫌な思いをしたり説教されたりの経験があるんじゃないかと思って話を聴くようにしている。

 


ネットで産婦人科医について荒れる時は、たいてい過去に産婦人科医で酷い目に遭ったという経験が増幅していく時で、しかしそれらは自分の業界で実際に起こっていることで、怒りや痛みをその時言えなかったことを受け止めないといけないんだろうなと思っている。

 


教育や一般的な性差別やハラスメントの認識が広がったおかげで産婦人科医の態度というものは改善してきているとは思うものの、残念な産婦人科医がまだいることは事実で、由々しき問題だと思うけれど、患者からこの先生はこういうことをした、言ったと聞く以外、各産婦人科医の診察風景はわからない。

学会や医会で教育しろという声はあるけれど、強制力のあるものはないので、参加してもらわないことにはどうにもならず、そもそも自分に問題があるとは思っていない病識のない重病人みたいなものなので、治療につなげることができない。

 


しかしトレンドワードに産婦人科医が上がるくらいなんらかの苦痛を感じている人がいるということを、共有くらいはしてもいいんじゃないかと思っている

この時期に反ワクチンとか言い出す助産師さん、大丈夫ですか?

最近Facebook助産師からの反ワクチン、反医療の投稿を目にすることが増えてきたので書くことにしました。

 


今でこそ「自然なお産」という文字を見るだけで「草原かどこかで産むのかな?」と言いたくなるくらい蛇蝎のごとく、必要な医療介入を拒否する不自然な「自然派」を毛嫌いする私ですが、実は産婦人科医になりたての頃は自宅出産、助産院での分娩ええやんけー!大病院のお産は決まった時間に機械のように授乳かー!とか思ってましたからヤバい。その頃にSNSなくてよかった。デジタルタトゥが残ってしまうところでしたわー。

 


なんで嫌いになったかというと、私の出会ったその手のお産を扱う助産師が、母子の安全は二の次で「自宅や助産院でのお産こそ最高、病院でのお産は敗北」的な人ばかりだったからですね。妊婦と赤ちゃんが死にかけてるというのに紹介もせず妊婦に病院探せと手放し、重症化してから来るものだから(未受診飛び込み分娩と扱いは同じ)、当然バタバタで帝王切開やら母体搬送児搬送、そういう事例があまりに続けば夢からも醒めるという話ですわ。

その昔、嘱託医としてそういった分娩のバックアップを先代部長の頃はやってましたが、とてもじゃないがマンパワー的に無理、そのようなお産の対応に手を取られて、本来の自分のところの妊婦に何かあって手遅れになったらシャレにならん、ということで嘱託はやめました。

 


最近目にした反医療や反ワクチンの投稿、「マスクするなんてただの儀式で意味がない」「インフルエンザワクチンは意味がない」程度の投稿なんですけど、職業明記しての投稿ですから、それは意識していただきたいところ。しかもその人は普段めちゃめちゃホメオパシー推しとか反ワクチン反医療というわけではないんですよね。一緒に働いてるときはすごくよくできるスタッフだったりしてなお厄介。なぜあなたはSNSではいきなりレイキがーとかマスク意味ないとかリアルで言わないことを言い出すんやマジ理解不能やで。助産院の看板背負って大丈夫か?つか患者さん、妊婦もアホじゃないのでちゃんとそういう投稿見てますよ?

さらに母里さんて人の投稿引用、まともな医療者やトンデモ医療を憂う人ならたいてい知ってる有名な反ワクチンの人で、そんなん好意的扱いでシェアするってことはあなたもそういう思想ってみなされるんすよ?今コロナのワクチンさっさと打って鬱屈とした日々を終わらせようぜという時期に?

 

ワクチンも100%ではないですが、最近のコロナワクチンで血栓のリスクがあるかも?という話があればいったん差し止めになったりもしてますね。少なくとも重大な問題を抱えたまま接種を強行することはありません。

 

母里さんについてはこの辺のブログが↓

https://www.gohongi-clinic.com/k_blog/377/

 


助産師の起こした事件で重大なものにはビタミンKを投与せず、結果的に赤ちゃんが死亡した事件もあります。

https://toyokeizai.net/articles/-/282404?page=4

 


近年、「分かり合える人とは分かり合えるが分かり合えない人には何を言ってもムダ」という諦めの思考になっている私ですが、ド素人ならともかく、助産師や医師の資格職が人の命を奪いかねない投稿をSNSでするのは、母子に被害が出る以外に業界全体への不信につながります。まともな助産院やきっちりルールを守ってる自宅出産の人もいるんだよと言われても、まずは屏風からその助産師を出してくれと言われないようお願いしたいところです。

 


重ねて言いますが、デマ、あるいはデマと知らずに拡散した間違った知識が、軽い気持ちの投稿が、行為が人の命を奪うことがある、ということを肝に命じて置かなくてはいけません。

流産手術と不妊症について

デヴィ夫人の、「不妊の原因は堕胎」という発言がテレビ番組でありました。

https://www.j-cast.com/2020/10/27397540.html

 


現在、7組に1組のカップルが不妊症であるとされています。また、体外受精で生まれた子は14人に1人と、不妊治療で生まれる子は割合として増加しており、稀なことではありません。

 


今回の「不妊の原因は堕胎」という発言は、現在治療中の方が堕胎の経験者であったり、それを隠しているというものであり、妄言レベルで許しがたいものですが、それとは別に、流産手術に関して「この手術を受けることで妊娠しにくくなりますか?」という質問は実はよく受けるものであり、一般的に「流産手術は不妊の原因となる」説はそこそこ浸透しているのではないかとも思います。

 


これは、「アッシャーマン症候群」という病態のことがなんとなく広まったのかもしれませんので、少し解説が必要かなと思った次第です。

アッシャーマン症候群というのは子宮内癒着症からの不妊症や不育症の原因となるものですが、実は産婦人科医を20年ほどしていても「あーこれアッシャーマン症候群っすねー」という診断をしたことはありません。教科書ではみたことあるんだけど。年間報告数100に満たない件数だからまぁそんなものかも。

https://ameblo.jp/matsubooon/entry-12107797858.html

上記の生殖専門医の先生のブログにもう少し詳しく書いてあります。

 


ガラパゴス化していると言われる日本の流産手術ですが、実際は昔ながらの掻爬手術は、現在は吸引法に取って代わられつつあり(吸引法の方がアッシャーマンは減ると思われます)、手術数自体が減っていることから、さらに減ると思われます。

よって、掻爬にこだわる産婦人科への受診はあまりおすすめしませんが、流産手術を受ける際に「今後不妊になるのでは…」という心配はほぼしなくてよいものです。

ただしゼロではないので、当然産婦人科医側ではアッシャーマン症候群を作らない努力やスキルが求められます。

 


また、今回のデヴィ夫人の発言は「堕胎」という本来犯罪である行為の言葉を使っているのですが、人工妊娠中絶もそうではない流産手術も、方法は一緒です。ので、デヴィ夫人の発言が正しいならば、人工妊娠中絶だけでなく流産手術を受けた方も不妊になってしまいますが、そこには言及がありませんでした。

・彼女は正しく理解して発言しているわけではない

不妊患者への著しい誤解や偏見がある

・望まない妊娠はどのような避妊法を使ってもゼロにはならず、人工妊娠中絶は女性の権利であるという認識がないために、中絶を選択した人に懲罰的な意識があるのではないか

・中絶を隠しているという陰謀論的な「知識」

により冒頭の発言が生じたのであろうと思われますので、今後正しい理解の進むことを願っています。

ざっくり言うと、医者の勧める治療を選択しなくても、困っている症状は抱え込まずどうにかしてくれと言ってよい

私は一般の産婦人科に勤めているので、悪性疾患ばかり診ているわけではなく、そのような方はその都度関わるかんじです。

 

研修医の頃に最初に関わった末期の方は子宮頸がんでした。昔々、同じ病気の患者は入院や手術の説明を複数まとめて行っていたため、プライバシーも尊重されず、人間として扱われていない!と怒りを感じて最初の治療の段階で病院を離れ、温熱療法や食餌療法など民間療法をしている間になすすべもなくなってしまった方でした。

その後信頼できる医療機関に出会ってからは可能な治療は行いつつ、以前の経験をもとに人間らしい扱いを受けることがいかに患者にとって大切か、民間療法に費やした時間や諸々がいかに無駄だったか、でも医療者のせいでもあるんやでということを医療者を含めていろんな方にお話をされている方でした。ハキハキと思ったことを言う方だったのですが…。

 

尿管が癌に蝕まれて尿を出すことができず下半身はバンバンにむくみ、背中から腎ろうというチューブを腎臓につないで尿を出していました。

最後の方は動くのも困難になり、ちょっとしたことも自由にできなくなりました。

そんな時、少し担当医への愚痴をこぼされたので「そんなことなら、どんどん言ってくださいよー」とかるーく言った私ですが「患者はね、言えないものなのよ」と返されたことがあります。

そうか、バンバン医者に物申してると思ってた患者さんでもそれか…というのがずっと頭に残っていることでした。

 

時は流れて20年経ち、癌の手術はだいぶ渋っていたもののなんとか説得して治療した方がいて、術後はもともと腫瘍が専門のボスが外来担当医となったのですが、抗がん剤は使いたくないとのことで徐々に病状は進行(なお抗がん剤を使ったとしても完治するわけではない状態)していました。外来で会うことはありませんでしたがどうされているのかはカンファレンスでも聞いていましたしボスもそれなりに医師、患者関係は普段から良好な人なので、うまくいっていると思っていました。

訪問看護のスタッフに「ボスが嫌というわけではないけど、前に担当してもらってた医者に会わずに死んでいくのは嫌」と私たちに会いたいという希望が出され、お話をすることに。

 

いろいろ話はしましたが、その中で、「今困っている症状があるのだけど、抗がん剤放射線治療も断ったので、断ったくせにいろいろ言うんじゃない、とボスに言われるんじゃないかと思って困っていることについては伝えていない」(名誉のためにいうとボスはそういうことはまず言わない)と言われて、

こっちの提示する治療はまあ最善と思って勧めているものの、100%治りますよ!的な状態ならともかく、そうでもない場合は状況に応じて選択するのは患者だし、それをサポートしていきますよ、という医療者の姿勢は全く伝わってないのはあかんやんけー!と思った次第でした。

 

癌に限らず、いろんな場面で医者の勧める治療を断って別の方法を選択することはしばしばあると思いますが、それでいいんです。うまくいかないことはありますが、その都度こちらは患者の抱えている問題を納得する形で提供したいと思っています。

例えば、ピルを勧められたけど合わなかった、でもそのことを言いづらい、もう病院に行きたくない…では本末転倒で、合わない、よしわかったじゃー別の方法でやってみましょう、これはどうですか的なやりとりで治療は行われていくわけです。

この治療で行ってみよう!つって始めたものの、意外と副作用で早々に断念、勧めたこっちも「あーすいません…」となることもあります。

長々語ってきましたけど、タイトルまんまで、医者の勧める治療法を選択しなかったからといってそれを後ろめたく思う必要はない、症状が良くならない場合は大きな声でそれを伝えてもいいんだ、ということです。

新型コロナに関する里帰り分娩拒否の報道ですが

https://twitter.com/yahoonewstopics/status/1253322297001127937?s=21

千葉から岩手に帰省した妊婦が破水したが受け入れ拒否に遭ったという報道。

 

はじめに

妊娠がわかって産婦人科に受診する際、産む施設をどこにするのかはたいてい初診時から予定日が決まるくらいまでに確認されます。

自宅近くの産科にするのかや里帰りなど。里帰りの場合、イレギュラーなことがなければ妊娠34週くらいには里帰りを完了して、それ以降通院してくださいねとしているところが大半。里帰りしてしまえばそれ以降は遠距離移動はしないでもらいます。陣痛きたり破水すっかもしれんしね。

 

分娩予約は、周産期医療が瀕死の状態であり、数の制限をしている施設も多いことから、予定日が決まったあたりで里帰り希望の妊婦さんには希望の施設を探し、連絡して予約を取るように促しています。

お産は前述のような段階を経て予約され、数が把握されており、里帰りのように複数の施設で診察される場合お互いの情報共有をしています。

送り出す施設は受け入れ先が困らないように重要な事項や検査項目について伝えています。

 

そして、今回新型コロナがパンデミックとなり、日本産婦人科医会や学会では里帰りは推奨しない、強制はしないが里帰りを止めることも選択肢としています。

https://www.jaog.or.jp/news/news20200421/

里帰り分娩をする場合、無症状でも感染力を持つらしいこと、スタッフや他の患者さんへの影響も考え、2週間ほど里帰り宅にこもってやはり症状のないことを確認してから受診をお勧めしていることが多く、ということは、今までより2週間ほど、妊娠32週くらいで里帰りしている必要があります。

 

今回の新型コロナの流行を受けて、各自治体の産婦人科ではどういう症例をどれくらい受けられるか、どういう分娩方法を選択するかなどの対応に追われ、それらを決定してきています。シュミレーションや手術部や麻酔科医など関係各所との話し合いを短時間で迫られた病院もあります。

すでに崩壊していると言われている周産期医療にもう一つ難題が降りかかることになりました。

 

さて、今回のニュース、はじめのニュースを読んだ限りの情報で得られることは「岩手に帰省していた妊婦が破水しそうになったので救急車を呼んだが、まだ帰省して3~4日程度しか受け入れを断られた」こと。

妊娠週数などの情報はなし。

なので全然なにをどう判断すべきかわかりかねました。これだけしか情報がないと激おこする人もいるだろうなと。

 

その後の情報収集で

・妊娠35週であったこと

・元々岩手で分娩する予定ではなく、千葉で分娩する予定の妊婦であった

ことがわかりました。

 

つまり、通常の里帰り分娩ではありません。

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断ったとされる病院に、自分が勤務していたとします。

救急隊から早産の妊婦の破水の連絡が入り、COVID-19流行地域から移動して数日の妊婦であること、本来の里帰り分娩とは違い、単なる「帰省」の状態であったことが伝えられたとします。

 

無症状でPCR陽性になる事例はかなり報告されていますから、今、周産期の現場はかなりピリピリしています。

自院で感染が拡大したら、その他の妊婦さんを転院させる必要も出てきます。1人の妊婦のために、数百人のスケジュールを移動させる必要も出てきます。そして、感染流行地域から来たとなると、陽性と考えて行動することが迫られます。いつかその日がくると覚悟していても恐ろしく大変です。

それがいきなり破水での救急隊からの電話。

かかりつけでもなく感染症の有無も赤ちゃんの情報もなにもわからない状態。

かつ、僻地では一つの病院がその地域の最後の砦となっているパターンが多い。そこで分娩できなければ妊婦が路頭に迷います。

 

分娩室は空いているのか、そこは他の人への感染を防ぎ得ることが可能か、手術室は空いているか、スタッフの合意は得られるか、新生児科医はいるか。生まれた赤ちゃんが新型コロナに感染しているかもしれない、お産後の部屋はどうなる。それらは自分の病院で産む妊婦を混乱させないか。今、自分のかかりつけ妊婦が分娩中だったら?

なお、多くの産婦人科では飛び込みの妊婦より自分のかかりつけ妊婦の方が優先されると思います。

 

そんな中、受け入れろというのもなかなかに難しいです。

ただし、妊婦さんそれぞれにいろんな事情がありますから、元々分娩する予定だった千葉から岩手に帰省したのか、そこは責められないと思います。しかし、断った医療機関を責めるのもどうなんでしょう。

 

https://twitter.com/kadotaryusho/status/1253278410970763264?s=21

非難ともとれるツイートが数千RTされ、この話題はトレンドにもなりました。

 

このブログは私個人のものであって、日本の産婦人科医の総意ではないということを初めに言っておきますが、未知の感染症に立ち向かう時、後世になれば間違っていたとなることもたくさんあるでしょう。症状もなく破水した妊婦の受け入れを断るなんて言語道断かもしれません。

しかし、こういったニュースを報じる際は、本来里帰り分娩の予定ではなかった妊娠35週の妊婦がなんらかの事情で新型コロナの発生していない地域に帰省していた、ひょっとしたら感染している可能性もゼロではない、受け入れを打診された病院は寝耳に水もいいところで、地域の産婦人科医療が数週間機能しなくなるかもしれない、どうする?という判断迫られたということも伝えるべきではないでしょうか。

単に「たらい回し」の事例ではなく、誰が悪いとかそういうことでもなく、

ただ、報道の仕方は情報を正しく伝えるべきではないかと。

 

産婦人科業界では、以前から「マタ旅」と呼ばれる妊婦の旅行、それにまつわるアクシデントに警鐘を鳴らし、不要不急の旅行はしないよう、あるいは一旦施設内に入ると出るのに時間がかかるテーマパークなどの利用も注意をしています。一旦アクシデントが発生するとその地域の周産期医療を崩壊させる可能性があるからです。母子を守るという職責からも特に矛盾しないと思います。

今回のことはそれのバージョンアップされてしまった事例というか…

 

世間がどれだけ怒ったとしても、私はこの事例に関わった医療機関のみなさん、お疲れ様でした、という気持ちでいます。

大変な時ですが、みんなでがんばっていこう。

妊婦のみなさん、新型コロナが落ち着くまで、里帰り分娩をする場合は分娩先の病院やかかりつけ医とよく相談しましょう。移動の制限もかかりますが、できれば専門家の意見に従っていただけると有り難いです。

女性のシモを語るコーナーに、生理中であるというスタッフのバッジは必要か

ざっくり言うと、デパートに女性のシモにまつわるコーナーができた

以前からタブー視されてきたそれらのことについて、オワコンと言われるデパートがなにか突破口を開きたいと思っている。なおスタッフは希望に合わせて生理中であることのバッジを試験的につけてみている

https://www.wwdjapan.com/articles/981032

 


強制でないにせよ、肯定的な意見はあまり見かけない。炎上を見越しての導入であろうが、そりゃそうだろうなと思う。

 


デパートに行って、まぁ生理でお悩みのことがあったとして、生理中ですっていうスタッフになにか尋ねようというより、「体調大丈夫ですか?」みたいなことが先に立つし(ヘルプマーク的な)、生理中であろうがなかろうが、経験者であれば困ることや聞きづらいことなどは大まかの予測もつくでしょう。売り場にいる以上それに対応できるスタッフでないといかんわけで。生理中にバッジをつける意味がよくわからない。結局、うわドン引き、ハラスメントにはならんのかという話題にはなるものの、売り上げに貢献するとかコミュニケーションが盛り上がるかというとそれはもう全然見込めないと思った方がいい。生理中に接客が厳しい、客や同僚に気を使わせてしまうほどに症状の強い店員はバッジをつける前に産婦人科を受診したほうがよい。

 


というわけで、生理ちゃんというマンガでも炎上しそう〜みたいなことは描いてあって、炎上盛り込み済みなんだな、炎上確信犯は一部にものすごい怒りを生むと思うけど、それでもやるんだな、ということと、

炎上しようがデパートではモノが売れないんじゃなんか奇策が欲しいんじゃ!というデパートの悲哀が最も感じられるニュースでした。

生理についてコミュニケーションはかる目的で生理中のバッジつけるって、は?意味不明という感想、そうでしょう。わかる。でも、生理痛やPMSについて啓蒙したところでデパートではモノは売れない。ということなんですね。

なお、理解は可能なものの、同調同意しているわけではないということは言っておきたい。

 


以上がウォッチャーとしての感想で、次は産婦人科医として。

 


生理についての悩みつらみは多岐にわたるものの、生理痛/月経困難、PMS/PMDD が二大巨頭になると思われます。

900万人が月経困難と言われるものの、治療者は6%ほどと報告されています。

http://www.endometriosis.gr.jp/non-member/kaishi/kaishi34pdf/26-sitei2.pdf

PMSも生活に困難をきたす人は20人に1人いますが、認知度は低く、ひたすらがまんしている人は多いと思われます。

http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13

圧倒多数が苦しんでいる疾患なのに治療してない。

 


産婦人科医の啓蒙が甘い、受診したところで適切な治療に結びつかなかったというお叱りも日々痛感していますが、あまりに生理に伴う症状は病気だと思われていなさすぎる。

 


学生の頃は試験やプール、旅行に差し障り、教師や親の無理解にも接する。嘘つき呼ばわりされることさえある。

産婦人科が身近ではないので、当然社会人になっても通院するわけじゃない。というかそんな時間が取れない。休めない。でもつらい。集中力は切れるし能率上がらない。

パートナーのできるころ、子どもを産む頃に月経前に不調になる結果、八つ当たりをしてしまう。いつもなら気にならないようなことなのにブチ切れてしまう。あっと思った時にはもう遅い。どうしてこんなこと言っちゃったんだろう…後悔しきりな人をめちゃくちゃみてまいりました。暴力を振るってしまい、人間関係に取り戻せないヒビの入ることも。女性には、生理に伴う長年にわたるつらく苦しい時期があるわけです。

子宮内膜症はさほど知られてはいない病気ですが、生理痛から発覚することも多々あり、知らずに放置していた結果、卵巣摘出や不妊症、癌に進む場合もあります。

 


しかし、月経困難や生理前の症状、治療すれば今まで寝込んでいたのはなんだったのだもっと早く治療すればよかった!って人、産婦人科を受診していれば手術までは必要なかったかもしれないのに…不妊にならなかったかもしれないのに…という人もたくさんいるんですね。

八つ当たりに関しても痛みに関しても、自分もつらいし周囲もつらいわけです。八つ当たりを受け止める、生理の時は痛くて動けない、よって配慮するというのも愛情かとは思いますが、大切な人につらい思いをさせない、治療をするということも愛情ではないかなと思っています。

 


というわけで、生理についてコミュニケーションをはかるのはデパートでもどこでもいいわけですが、それに伴う病気もたくさんあるんだよ、産婦人科のかかりつけも若いうちから作っておくといいよ、受診しろ、というのも話題に盛り込んでいただけると幸いです。

そうはいっても信頼できる産婦人科ないじゃんという場合は、そのむねどんどん発言してほしいなと思っています。

救急車を不正利用する妊婦、マジでいるんすか問題

「陣痛時、妊婦の救急車不正利用、タクシーがわりの利用が救急医療を圧迫している!」という意見をツイッターで見て、「ずいぶん治安の悪い地域で勤務されてる先生なのかな…」とまず思ってしまった。

赤ちゃんを産んですぐに赤ちゃん捨てようとした産婦が、股からへその緒ぶら下げてダッシュして逃げた話とか、母乳好きのための風俗で働くおねえちゃんが常に母乳を出す必要があるため、妊娠しては子どもを捨てる話を聞いたことがあったので、そういう地域なのかなと。
そういう、一般的に考えてクレイジーな世界じゃないと、陣痛が来たらイージーに救急車呼んで産院に到着する妊婦というのは想像し難かったわけです。

通常、妊婦はかかりつけの産院があって、初期は4週ごと、最後は毎週通います。その中で、陣痛が来たら?破水の時は?救急車を呼ぶ時はどんな時?といったことについて妊婦と話し合います。夫が出張や夜勤でいないこともありますし、すでにお子さんのいる方では誰に預けるのかといった個別の事情にどう対応するのかは、結果的に安全なお産を守ることにつながるからです。つまり妊婦がどう産院にアクセスするかを把握するのも業務のうちと考えています。

そもそも、タクシーがわりというか、陣痛が来るまでになーんも対策をせず「陣痛きたんで救急車呼びます」といって来院した人を私は見たことがない。外来で「陣痛来たら救急車呼んでいいんですか」ときかれることはあるけど。
いや、そういう妊婦がゼロなわけじゃないだろうけど、救急医療を圧迫するほどの人数はいないと思うわ…。
どこの病院にも受診したことのない妊婦が陣痛きて動けなくなり、どこに行けばいいのかわからなくなって救急車呼ぶパターンはあるけど。タクシーがわりでもないし、不正利用でもないわな…。
念のため、ながらく周産期センターで働く助産師にもきいてみたけど、タクシーがわりに救急車使う妊婦の経験なし。友人の産婦人科医も複数の病院勤務経験あるけど、そんな妊婦はいないと。
当該の先生はよほどそのような妊婦に当たっていたのかもしれないのですが、あたかも妊婦の大勢に何も考えてない、対策も講じない方が多いかのような煽りで大炎上してしまった感があります。生活保護受給者や高齢者にも範囲を広げたのもあまりいただけなかったですね。

私は今、ド僻地の周産期センターでも働いているわけですが、ド僻地というのは過疎化が進んで産婦人科がどんどん減って、結果的に妊婦が通院する産婦人科がクッソ遠くなっています。近くに産める産院がない。そんで片道2時間とかかけて外来に来てる。
じゃあ、そういう地域でなにが起こってるかというと、車中分娩や、間に合わずその辺でお産になる事例の多発です。救急隊とスタッフで電話で指示しながら到着を待ち、新生児科医が蘇生キットを持って駆けつけるというのも稀ではなくなってしまいました。
ゆえに、問診で「これは間に合わないな」という妊婦は前もって計画分娩にしたり、近隣の施設で待機してもらって陣痛を待ったりしています。早産になりそうな妊婦は満期になっても退院せず陣痛くるまで入院とかもあり。車中分娩になった事例に対しては、担当医が「ちゃんとリスク説明したのか」「病院に来るまで何分かかるか確認しとったんか」とカンファレンスでつっこまれます。そこまでちゃんと仕事せいと。
今後、そういった救急車の利用は増えるだろうと個人的には思っています。そして、呼ぶのをためらうようになってはいけないとも思っています。
それが救急医療を圧迫するというのなら、救急のインフラ整備をするべきじゃないでしょうか。

ただし、この話、ガンガン炎上し、「陣痛で救急車呼んだっていいじゃん!」論も多く目にしました。とりあえず、妊婦はかかりつけときちんと相談しておきましょう。現場からは以上です。