産婦人科医としてというより、個人的に内診について思うこと

子宮頸癌で亡くなる人は、年間約3000人。子宮体癌は約1000人。

一方、婦人科検診の受診率は20%程度。進行するまで痛みや体の不調をほとんど感じづらいので、かなり進行してから初めて婦人科を受診する人も。毎年検診だけでも受けておいてくれたらなあ、というのはそこに関わる婦人科医の思っていることだろうと思います。手遅れになった症例を経験すると「どうしてもっと早く来なかったんだ…」という思いが先立ってしまう。

じゃあなんでみんな婦人科検診受けないんだろう?だって年間何千人も死んでるんだよ?自分の体のことでしょ?

うん、そうなんだ。それは正論だと思う。あと、受けない人の大半は今そこに差し迫った危機があるわけじゃないと考えてるからだろうな、とは思う。
病気があれば何かの症状が出てくるでしょ、それから受診でいいのでは?という人もいるし、その他に優先する例えば仕事とか家事とか介護とかそういうのがあったりする。検診のためにそれを後回しにできるか、ほかに代わってくれる人がいるかどうかも受診するには大事なポイントだと思う。

でも、産婦人科医になって、とにかく受診するのに心理的にハードルの高い科だなと。思ったよりもはるかに性的な暴力を受けたことがあったり、すでに別の産婦人科で恐ろしく嫌な思いをしたことのある人が多い。だから、必要があって受診はしているけれども、むちゃくちゃ恐怖心や嫌悪感を伴いながら内診台に乗っている人がいるということ。これは常に頭においておきたい。

そしてまず問診。「性交渉の経験はありますか?」
うっ、なんでこんなこときかれるんだろう…
レイプされたことはあるけど、それ以来男性が怖くてセックスなんてできないけど、これって「経験あり」になるの?なるとして、この後私は何をされるわけ?下半身丸出しにする以外に診察する方法はないんですかい?
「妊娠、分娩歴は?」
…昔したことがあるけどそれについては触れたくないなあ…
というような方もいらっしゃるでしょう。
場合によってはセックスの回数答えなきゃいけなかったり。嫌すぎる。

診察。たいてい下半身裸になるところからスタート。股間のスースー具合が心もとなさすぎでしょ。
内診台最初乗り方わからんし。
えっ、何入れられてるんだっていう器械いれられるし。クスコっていうんですけどね。くちばしみたいな形してて、広げないと奥が見えなかったりもするんですが、そうされると痛いんですよ。しかも冷たいままだったり。

あっ、内診のときよく受ける質問ですが、靴下ははいたままで大丈夫です。

とにかく、超!プライベートすぎるんですよ、産婦人科は。しかも診察はプライベートゾーンをさらさなきゃいけないんですよ?診る方にはその対象物でしかないけど、そこは私のもので、断りなく見せたり触らせたらアカンとこじゃないですか!
私自身、患者として産婦人科の診察を受ける時は、「あー今めっちゃ肛門まで見えてるわー…なぜ私はこんな格好を…」「もうちょい痛くないような配慮を、ちょっとでいいんで!オナシャス!」とウンザリした気持ちで股を開いています。
それを口に出して言えるかっていったら言えない患者がほとんどでしょ。私も虚ろな目で無言ですよ。

いや、必要だからみせるの普通でしょ?っていうのはほんとごもっともなんだけど、じゃあ、そこにみせてもいい信頼関係があるかどうかも大事でしょ。
そこで医療者は「えっ?なんで診察させてくれないの?」的なことで患者を責めるような発言をしてはいけない。そこに信頼関係がないか、なんらかの診察を拒絶する理由があるはずなんですよ。性交渉の経験があるかどうかもそこでは無関係。だってセックスするときは相手との信頼関係というか合意が一応はあるじゃん!

あとは、心ある産婦人科の先生が「自分は」診察のときに細心の注意を払って、丁寧な対応を心がけてます、というのは、すでに嫌な思いをしたことのある人の気持ちはなかなか動かせないわけです。だって、「私」が出会った産婦人科医がものすごく嫌な感じだったら、次もそうかなって思うじゃないですかー!どこに行ったら信頼できる先生に出会えるかは約束されていないじゃん。

「内診台で股を広げたまま放置されていた」「内診のときに怖くて拒否しようとしたら押さえつけられた」
他にも心ない言葉を吐かれたり、産婦人科で嫌な思いをしたことのある人は私たち産婦人科医が想像するよりずっと多いんじゃないかな?
「めげずに信頼できる産婦人科医を探してみて!」
都市部ならまだしも、地方にはそもそもその選択肢さえない。検診は検診車のバスのみとか、質問させてくれない、すると不機嫌になる医者だったり、前述のようにプライベートゾーンをさらしていることへの配慮が全くない医者しか行動範囲にいなかったら?症状も気力もないのに時間とお金をかけて探して遠方の産婦人科受診するかっていう話。

いろんな配慮をしてる先生がいるのはたしかです。自分もやってる「つもり」。
でも、それが伝わってるか、一般的かというとそうじゃないと思います。
だから、受診してっていう啓蒙も大事だとは思うんですけど、同時に患者に嫌な思いをさせないことも医者同士で啓蒙するなりなんなり必要なんだろうなと思ってます。

あと、SNSでときどき気になるけど、なるべく患者を責めるような受け取りにならない文章を綴ることに気持ちをさいたほうがいいと思うんですね。
どうしたって医者と患者は多少のパターナリスティックな関係になりがちです。まあたまにめっちゃ暴言吐いてくる患者もいるけど、それはそれでおいといて、心理的にも対等と実感できる人そうそう多くないのでは?
そんで患者を責めたり怒ってる医者って怖いしいやだなあと思うから、その人の言うことすんなり腑に落ちないじゃないですか。文字だけのコミュニケーションは思うように伝わらないけど、伝わらないかもしれなくてもぞんざいな言葉でいいわけじゃない。限界はあるけど余計に丁寧に。

「思ったこと、わからないこと、不安なこと言って!」と医者は言うけれど、私も患者として診察受けてるときは言いたいことの10%くらいしか言えてないと思います。
「私はいつでもきく準備はできてるよ!」と医者に言われても、そう簡単にできないって。そういうもんでしょ。正論と現実は一致しないことよくあるって。
患者である私が何か発言することで、ムッとしたりする医者もいるじゃないですか。さっきも言ったけど、「私はそうではありません」ていうのは、すでにされたことのある人には説得力があまりないんですよ。
言えないものだから、「他にわからないことやきいておきたいことはありますか?」って質問が最後に必要なんだと思う。

あとは、患者は言いたいこと言えないもんだけど、できればおかしいことについてはどんどん声をあげていただきたいなと思ってます。面と向かって言えないときは、投書も有効です。人格攻撃は受け付けてないんでそこはよろしくお願いします。
同じような種類の人間が集まる集団内にいると、外の世界では非常識であるという感覚が鈍りがちで、「えっ、これがこんなに嫌がられてたのか」ってわからないもんだし、言われて初めてはっとすることもあるんですよね。言われなきゃわかんねえのかよと怒られればそれまでなんですけど。これは別に医者に限ったことじゃないと思うんだよね。

以上、患者として思ってることメインで、医者として思ってることちょっと。
でもまぁ、一生懸命されてる先生には心外な文章であろうことも承知しております。
その努力は称賛した上で、失礼な文章になるかもしれないことは申し訳ないなと思ってます。
患者さんにおかれましては、嫌だろうなとは思うんですけども、承知しておりますけども、できますれば検診受けていただけると幸いで、受けていただけるよう努力していく所存です。