ざっくり言うと、医者の勧める治療を選択しなくても、困っている症状は抱え込まずどうにかしてくれと言ってよい

私は一般の産婦人科に勤めているので、悪性疾患ばかり診ているわけではなく、そのような方はその都度関わるかんじです。

 

研修医の頃に最初に関わった末期の方は子宮頸がんでした。昔々、同じ病気の患者は入院や手術の説明を複数まとめて行っていたため、プライバシーも尊重されず、人間として扱われていない!と怒りを感じて最初の治療の段階で病院を離れ、温熱療法や食餌療法など民間療法をしている間になすすべもなくなってしまった方でした。

その後信頼できる医療機関に出会ってからは可能な治療は行いつつ、以前の経験をもとに人間らしい扱いを受けることがいかに患者にとって大切か、民間療法に費やした時間や諸々がいかに無駄だったか、でも医療者のせいでもあるんやでということを医療者を含めていろんな方にお話をされている方でした。ハキハキと思ったことを言う方だったのですが…。

 

尿管が癌に蝕まれて尿を出すことができず下半身はバンバンにむくみ、背中から腎ろうというチューブを腎臓につないで尿を出していました。

最後の方は動くのも困難になり、ちょっとしたことも自由にできなくなりました。

そんな時、少し担当医への愚痴をこぼされたので「そんなことなら、どんどん言ってくださいよー」とかるーく言った私ですが「患者はね、言えないものなのよ」と返されたことがあります。

そうか、バンバン医者に物申してると思ってた患者さんでもそれか…というのがずっと頭に残っていることでした。

 

時は流れて20年経ち、癌の手術はだいぶ渋っていたもののなんとか説得して治療した方がいて、術後はもともと腫瘍が専門のボスが外来担当医となったのですが、抗がん剤は使いたくないとのことで徐々に病状は進行(なお抗がん剤を使ったとしても完治するわけではない状態)していました。外来で会うことはありませんでしたがどうされているのかはカンファレンスでも聞いていましたしボスもそれなりに医師、患者関係は普段から良好な人なので、うまくいっていると思っていました。

訪問看護のスタッフに「ボスが嫌というわけではないけど、前に担当してもらってた医者に会わずに死んでいくのは嫌」と私たちに会いたいという希望が出され、お話をすることに。

 

いろいろ話はしましたが、その中で、「今困っている症状があるのだけど、抗がん剤放射線治療も断ったので、断ったくせにいろいろ言うんじゃない、とボスに言われるんじゃないかと思って困っていることについては伝えていない」(名誉のためにいうとボスはそういうことはまず言わない)と言われて、

こっちの提示する治療はまあ最善と思って勧めているものの、100%治りますよ!的な状態ならともかく、そうでもない場合は状況に応じて選択するのは患者だし、それをサポートしていきますよ、という医療者の姿勢は全く伝わってないのはあかんやんけー!と思った次第でした。

 

癌に限らず、いろんな場面で医者の勧める治療を断って別の方法を選択することはしばしばあると思いますが、それでいいんです。うまくいかないことはありますが、その都度こちらは患者の抱えている問題を納得する形で提供したいと思っています。

例えば、ピルを勧められたけど合わなかった、でもそのことを言いづらい、もう病院に行きたくない…では本末転倒で、合わない、よしわかったじゃー別の方法でやってみましょう、これはどうですか的なやりとりで治療は行われていくわけです。

この治療で行ってみよう!つって始めたものの、意外と副作用で早々に断念、勧めたこっちも「あーすいません…」となることもあります。

長々語ってきましたけど、タイトルまんまで、医者の勧める治療法を選択しなかったからといってそれを後ろめたく思う必要はない、症状が良くならない場合は大きな声でそれを伝えてもいいんだ、ということです。