女性医学会シンポジウム~ 「性教育と性感染症」なるほどメモ ~主に中高生に関する問題をどのように産婦人科医がとらえているか的な話

シンポジウムは、シンポジストがそれぞれのお題でお話。記事のボリュームは、なるほど、これは知っとくといいですね的な順になっており、それぞれの先生が密度の濃いお話をされていました。聴き取りながらiPadに入れてたので、聞き逃していることとか多少のズレがあるかもしれません。カッコ内は感じたこととか補足です。

性教育というととかく「セックスを勧めるのか!」「妊娠の知識を持てということは女に妊娠しろということか!」という意見が出るが、どれも的がずれている。

 

妊娠に関する知識を持つということは、同時に避妊に関する知識も得られるということ。当然、女性だけでなく、男性側も知っておくべきこと。

「中高生に対する低用量ピルの役割の伝え方」

あおもり女性ヘルスケア研究所 蓮尾豊先生


中高生に対して、特に中学2年生くらいのときは、ピルと避妊を積極的に結びつけるのではなく、月経トラブルや月経周期調整の役割があるを伝える。ついでに避妊の知識も伝えるようにすれば、教育的な観点からも間違ったものにはならない。

(20歳前後までは月経不順であったり、量もまちまちで、学業その他に支障の出ることもある。また、原因のはっきりわからない月経痛が特に思春期では多い。性教育=セックスを推奨するのかみたいな意見は根強いが、はよその層は死滅してほしい)

中学3年生くらいからセックスとの関連も伝えていく。

産婦人科医の役割については、診察ではなく、相談にきてほしいと、産婦人科医自らが発信するべきである。

(困った時には相談される相手になろうという呼びかけであるが、産婦人科医の診察で屈辱的な気分を味わったりするなどして二度と受診したくないという声があることも産婦人科医は十分に知っておくべきだと思う)


また、みかけや年齢に関係なく、患者を診察する際には、妊娠の可能性を考えるべき。
(一度でも月経があれば妊娠する。というか、初経前にセックスしていれば妊娠していることもある。身内からレイプされる人だって激レアではない)

コウノドリや若年の妊娠に関し、世間はひどく驚き、センセーショナルなものとしてとらえているが、日常に数百ある一つのことをドラマにしているから、私たち産婦人科医は全く驚かない。

ところで、38年にも及ぶ月経期間が、女性にはハンディキャップにもつながる(仕事や学業に支障をきたすという意味)。


また、イベントに月経がぶつかったらどうしようと不安を感じる時がある。
修学旅行や受験、デート、大切な行事など。そこに産婦人科医は介入すると大きな女性の生活の質向上に貢献できる。年4回くらいに出血の回数を減らすこともできる。
(ピルは、21日間飲んで7日間休薬するパターンで飲んでいる人が多いと思いますが、実は数ヶ月飲み続けて月経そのものの回数を減らしたり、イベントに合わせてずらすことも可能です)

 

ここで、月経周期の調節法に関するスライドをご覧ください。

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2008年、オリンピック欧米女性選手の83%がピルを服用していたが、4年後の2012年でも、日本人選手のピル内服率は7%のみ。理由はドーピングに引っかかるのではないかとか基礎的な知識のなさ。今まで、ピルを理由に金メダルを剥奪された選手がいただろうか。
(月経の時って血液が生理用品から漏れて服を汚さないかとか気になるので、アスリートなら余計に出血量も痛みも減り、期間のコントロール出来る方が有用と考えているのがユーザーとしての考えであろう)

産婦人科医の要望としては、望まない妊娠を避けることだけが性教育ではなく、希望した時に妊娠できるようになってほしい、そのための知識を持ってほしい。
(産むか産まないかは個人の選択や自由に任されており、妊娠のしやすい時期や方法を知るのは逆に避妊の知識にもつながり、女性に産むことを強制するものではない)


また、時代によって、各世代の社会的な役割があり、江戸時代でならともかく、10代は子育て期ではなく、学んだりする時期。
(昔はそれこそ平均寿命も短く、十代からの出産はなんら珍しいことではなかったが、現代では10代はもちろんのこと、さらに20代までの多くが妊娠ではなく学業や仕事を抱えている)

10代で出産した人、中絶した数のデータ。

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15歳で189名中3人は2人目を産んでいる。
17歳で、3名は3人目の出産、1914名中84名は2人目の出産。


なぜ、希望しない妊娠になるのか。
4月の妊娠なら、8月になると中絶可能な期間は終わってしまう。あっという間に時が過ぎ、中絶可能な時期が過ぎ、望まない妊娠が出産へとつながる。
(つまり、産む気がなくとも妊娠週数などの知識がないために、初めて産婦人科を受診する頃には産むしか選択肢が残されていない。まぁ、初めて受診して臨月とかあるあるですし太ったと思ってダイエットしてたとかもあるあるですし)

 

「中高生の望まない妊娠に関して」 ウィメンズクリニック・かみむら 上村茂仁先生

産み、育てられる年齢になるまで性的な行為を中高生はしないことを伝える。
産婦人科医は、中絶したらピル、緊急避妊ピル希望したら継続的にピルの内服をするようすすめる。


(こういう時に製薬会社や医者の儲け目的かよみたいな陰謀論がありますが、人口妊娠中絶は自費診療で10万以上はかかるので、ピルをすすめるより、極端に言えばバカスカ中絶する方が収入にはなります)

お互いを大切にしようと思うなら、男の義務でコンドームを。女性の方も、彼が飲んでくれと言ったからピルを飲むのではない。自分の意思で飲もう。


(上村先生は患者さんとメールやLINEで連絡をするタイプの方のようで、普段どういったやりとりがあるのかのスライドが提示されたが、個人情報というか、学会で匿名として表に出すことは患者さんから同意を得られたかもしれないが、ブログへの引用はいかがなものかと思うので省略)


(ここで、避妊の効果はわかりにくいので、5万人が来場するコンサートに例えて妊娠の確率を表現。これはわかりやすいので参考にしてほしい)

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性感染症の動向」 京都府立医大 岩破一博先生


妊娠するのが怖くてオーラルセックスでの性感染症が増えている(膣に挿入するのは妊娠するから怖い、だからオーラルセックスになるけど、基本的に生だから感染症は増えるのであろう)

 

産婦人科医から、あるいは大人からの指導方法としては、〜をするのはダメという指導ではなく、〜するのはかまわないよというお話をしよう。

緊急避妊ピルをもらいに来るのはレイプが約半数。

(マジかレイプ犯、世の中で最も惨めに、孤独に、残酷な死に方で死ね)

通常のつきあいの中では「医者に股を開いて見せたいのか」というパートナーもおり、もらいたくてももらいに来れていないのではないかという可能性がある。

(即時に別れることをお勧めしますね)

先進国の中で唯一性行為によるHIV陽性か右肩あたりに増加、HIV感染の約半数で梅毒との重複感染がみられる(HIV感染を発見したら梅毒も調べておくといいすね的な)。

「タビトラ個人の全体の感想」


全員の先生から患者に寄り添おう、真摯に向き合おうという姿勢が見えて大変良かったです(小学生並みの感想)

 

 

女性医学会特別講演 野田聖子さん「不妊治療、卵子提供のち障害児の母として」

2016年11月5日、女性医学会の特別講演として行われた講演を文字にしたものです。カッコ書きは私の感じたことや補足です。

細かい言い回しなどは違う点もあると思いますが、おおむね文字にできたので多くの皆さんに読んでいただけるといいなと。

よく高齢で子どもを産み、その子が障害者であったことでバッシングされる野田聖子さんですが、生の声を聴けたのは良かったです。

 

(前置きとして、座長の先生と卵子提供に関してバトッたことがあることからスタート。)

1960年生まれで、26歳のとき県議に。産んでから大臣になるのがよろしいのですが、大変遅れてしまった。
でも、世間のキャリアウーマンという集団が、20~30代に出産、結婚の機会がなかったことの証左であり、義務教育では卵子の老化について教えられなかった。
つまり、「社会的不妊」、社会が作り出した不妊である。そのような人たちの代弁をできればと思っているが、カミングアウトするたびにバッシングされた。
不妊治療、開始した40歳時に気持ち悪いと言われたことがスタートになっている。子どもを産めないことが女性失格の烙印を押されるような、不妊の人が極秘に治療していた時代であった。

 

男女雇用機会均等法の弊害として、男と同じように働けるなら、同じ役職を与えてもいいよということがあり、みな婚期や出産が遅れていく。
私自身、毎月生理があれば妊娠はできると思っていた。国会議員のくせに勉強していないのかと叩かれたため、義務教育でそういうことを教えてきたんかいと文部科学省に文句を言いに行ったら、教育要綱に一切教えるべきという記載はなかった。

 

結婚したとき、同じように高齢結婚、出産した作家の林真理子さんに、早く産婦人科に行けと言われた。いや、妊娠できるよと思っていたが、敬愛する先輩の言うことなので産婦人科のドアを叩く。そこから泥沼のような6年間が始まった。体外受精を14回した。4回目の移植で一度は妊娠したが流産。(流産は働きすぎたためなんでしょうかとおっしゃられたがそれは違う単に確率の問題で、40歳は40%の流産率)


しかし4回目で妊娠はできたため、その後も治療を継続。少ない可能性なのにそれに望みをかけてしまった。前の夫との関係は受精卵が尽きたときに終わった。別れた夫は、いい人なんですよ。でも、正常な夫婦関係、生活(セックス含む)ができなくなってしまった。これは不妊治療をしている多くの人が同じだと思う。(たしかに医師に指示された日しかセックスのできない不妊カップルはたくさんいるし、食事や行動に制限をかけて不妊治療のことしか見えなくなったり、予定が立てられないなどの事態もよく発生する)
今セックスをしたら体がおかしくなって妊娠できなくなってしまうかもしれない。素人的にはそう思ってしまう。

 

体も心もボロボロで、お金も時間も、愛もなくなってしまい、なんのために一緒にいるのかわからなくなってしまい、憎み合う前にということで別れることになった。

キャリアウーマンの多くは、がんばれば報われると信じている。それがいきなり壁にぶつかるのが不妊治療。今はがんばっても報われないこともあると伝えている。


今の不妊治療は問題があり、どんどんステップアップしていく。人工授精、体外受精卵子提供。一回50万かかる体外受精など、今の若者が経済的にできるのか。富裕層しか不妊治療を行えないのではないか。また、日本の場合は、親になることではなく、産むということがゴールになっている。
卵子精子提供の道を開くのが必要。

 

二番目の夫は年下。最初の夫も年下だったが、年下好きというわけではない。出会ったときに子どもは産めないよとお話して、いいよと言ってもらえた。でも、彼の子どもを、と思うようになった。一緒に子どもを育てられたらなと特別養子縁組をしようと思ったが、共稼ぎで、母親が高齢であることを理由に斡旋団体に断られ落ち込んだ。ショックでした。日本の養子縁組は、親になる人への負担が重すぎる(専業主婦、主夫であるとか年齢制限とかそういうハードルが高い)。不妊治療でダメだと言われたときに、続いて「親」になれる方法を考えるべき。

 

インターネットの仕事をしているパートナーの探してきたのが卵子提供という方法だった。最低最悪の行為をしているとバッシングされた。法的に禁止されてはいないが、産婦人科学会では認められていない。よって日本国内で卵子提供を受けることはできない(禁止されていないが、やったときの法整備もされていないし)。一方で多数の精子提供は行われているのに?精子は簡単に出る、でも卵子を採取するにはリスクがある、というのが理由だった。日本は先進国で、安全に採卵する技術はあるのに、リスクという理由だけで卵子提供が行われていない。


卵子提供を受ける際、他にも60代でも卵子提供を受けて、ひっそりと出産している人がいることを知った。実態としてはかなりいるのではないかと思っている。こっそりやらなければいけないことが先進国として問題だと思う。ちゃんとしておかなくてはいけないのは出自の問題。
もう一つの卵子提供の一番の問題は隠蔽。遺伝子上、あたかも実子であることのように産むが、卵子提供を受けて、遺伝学的には母の遺伝子を受け継いでいないため、何か病気になったりしたときにかなりそれが障壁になる。(まぁたしかに遺伝するとして知られているものだけでなく、癌へのなりやすさや糖尿病へのなりやすさなども異なるであろうし)

また、「卵子提供が注目されると私が疑われ、親子関係にヒビが入る」と卵子提供で出産をした複数の人からクレームを受けた。


私の場合、出生前診断で、妊娠20週を迎える前からかなりの障害を抱えてくることが予想された。それでも中絶を選ばなかったのは、私に経済力があるからだと思う。中絶を選ぶ人のことは責められない。なぜなら今の日本は障害を持った人に冷たい社会。親は、障害児を産んだ罰のようにつきっきりで看護をしなくてはならない。それなのに産めとは言えない現状がある。

 

お産をするときには、看取り産になるかもしれないよと言われた。引き算や足し算は知っているが、看取り産てなんだよ、と思った。でも、そんな息子も来年小学生になる。
何度も外科手術を乗り越えてきたが、そんな医療の現場では、親は無力であると感じた。
障害児を産んで大変と言われるが、むしろ医療の問題に切り込んで行ける、息子は「パスポート」。息子の障害があるからそこから勉強して、関連に働きかけていける。社会にいいバトンを渡すために必死である。

 

子育ての今までに、命は大変脆いものであるとしみじみ感じた。三回心肺停止に陥った。国会議員なのに(医療行為としては)子どもになにもできない。真っ青から茶色がかった顔色に息子がなっていくのを見ながら、ああもうお別れなんだなと感じたりもした。それでも必死でバギング(人工呼吸)、蘇生したので、こうだと確実なものではないのが命であるというようにも感じた。それ以来、いろんなものを命としての視点で見るようになった。例えば、自衛隊も、自衛隊というものでなく、誰かの親であり、子であるという「命」である。

 

ここで、政治の話にうつります。

 

我が国の人口は長期的に急減。
人がいないと国が成り立たないということに気づいた人がいなかった。人のクオリティの問題もあるが(抱える問題としてのことを指していると思われる)、昔は高齢者自体が少なく、(若いうちに死んでいた)介護すべき老人を抱える若者の割合は7%以下だった。そういった意味で、老人への負担を抱える若者の割合などの状況が今とは全然違う。


急減する少子化の中で、内需に希望は見出せない。今までのことを(失敗だったと)覆すには自民党としてはジレンマもあるが、言っていかなくてはいけない。

これからの決め手は女性。成長戦略というが、具体的な方策はない。女性を活用することがこの国のポテンシャル。(活躍ってなんだろう)
実態として、女性は働いている。しかし、専業主婦層の多い時期から少子化は始まっていた。よく、女性に働く場を与えたから少子化になったんだと自民党のおじいちゃんはいうが、それは専業主婦の多い時代から少子化は始まっていたことで違うと論破できる。まずは同じことをしていても賃金の格差がある。共働きといっても、1:1のダブルインカムではなく、3:1くらいの収入比が現状。

 

(ここで女性の多い職場と働いている人数、年収などのスライド)
保育士平均年収317万。介護士307万。看護師473万、大企業645万。
活躍というけど、活躍できているのは氷山の一角。ここの賃金の格差を埋めることは必要。働き方(時間など)も変更していく必要がある。
また、方策についても、衆議院議員だと女性は9%しかおらず、そのような割合では、女性の要望が全く通らない。男性向けのものばかり通る。薬もそう。ピルは何十年もかかったのに、バイアグラは一瞬で通った。

 

今後の少子化打開策の一つとして、性教育もかかりつけの産婦人科医を作り、上手につきあうべき。歯医者などは小さな頃から行っている。恥ずかしくない関係に位置づけられているから大きな口を開けて診察してもらうことができる。だから、恥ずかしくない時期から関係を作るべき。恥ずかしくなってきてからでは行かないし。(まぁそうだけど、連れて行く保護者は時間をとれるかとか、その受診料は誰が負担するんやという問題はあろう)
ドックも男性に必要なもの以外はオプションで、高い。頸癌も20代にとっての数千円は高い。そういうことへの支援をしていくべきではないか、ということで時間になりましたので終わります
(めっちゃ盛大かつ長い拍手

東日本大震災から5年がたったわけだが

先日、ツイッターを始めてかなり早い段階で相互フォローになった産婦人科医と飲んでいて、うちの研修医もいたので、どういう知り合い方をしたのかというところからの説明になった。

 

ちょうどツイッターを始めて半年くらいの時期に、東日本大震災が起きた。それまでは、知らない人からフォローされたり、リプライが飛んでくることに戸惑い、「禿同」とだけコメントのついた引用RTにはリプライを返すべきなのかさえ迷う初心者っぷり。

しかし、ライフラインも、陸路空路全てが閉ざされた。情報の全く入らない世界。経験したことがなかった。


「なにか情報を発信してください」と繋がっていた産婦人科医に言われ、病棟の助産師にきいて思いつく限りの有用かもしれないことをツイートし続けた。そういう中で、たいてい今相互フォローの産婦人科医の先生方とはつながった。

 

その頃のツイッターは、救助や支援を求めるRTで溢れ、極端につらい話や極端にいい話で気持ちは乱高下していた。

 

救助に関するいい話、日本人の礼節の正しさ、節電についての注意喚起。
日本が一つにまとまったかのような錯覚の後が本番だった。

 

AERAは「放射能がやってきた」という扇情的なタイトルを見出しにした。
「鼻血がでた」「原因不明の体調不良」全てが原発の事故のせいになった。

 

病院では、「これ以上放射能を浴びたくない!」といって検査を拒否する人が現れ、あろうことか福島出身の母親からは「福島では無脳児がたくさん生まれているんだって!」と「報告」された。
「いや、そういうことがあれば公式に発表があるから」と言っても、ヒステリックに「お前は騙されているのよ!」と返ってきた。私はそれ以来、「科学的」な話を一切母親とはしていない。
話にならないからである。

 

リアルで関係のある間柄でもそんなわけだから、ネットで、前提とした知識を共有しない顔の見えない人たちが誤解をしていようとも、解くことはできないだろうと推察され、放射能の話題は周囲のツイッター医師にとって、アンタッチャブルな話題になった。どんな罵倒が飛んでくるかわからない、ツイッターは戦場になってしまった。

 

「手術台を水平に戻してください」と言いたかったのに「正常位でお願いします」と言っちゃってさ〜とツイートしたとき、「暗い話ばかりだったので、久しぶりに笑いました」というリプライをもらったことは忘れられない。
飲み会も明るい話も自粛、不謹慎の嵐だった。

 

震災前のツイッターがどんな空間だったのか、今はもうあまり思い出せない。しかし、有用なことをツイートする場でもなかったし、デマを打ち消す場でもなかったし、人格攻撃の飛び交う空間ではなかった。

 

あらゆる年代の、あらゆる知識や情報処理能力、リテラシー、全てにおいて差のあるツイッターという社会は、震災によって変わったと思う。
そして、変わったまま5年が経った。


デマを善意で拡散していた人たちは、自省することもなく、次のデマに飛びついている。あるいは、なかったことにしている。
デマと闘ってきた人たちはどうだろう。
ツイッターからは姿を消した。あるいは同じ言説と闘い続けている。
争いが続いたことで何か成果のあった実感を持つ人はいるのだろうか。

 

デマを打ち消したいときに、暴言を吐くのも、せせら笑うのことも、するべきではない。
ただ、優しい、わかりやすい言葉を用いて一から説明した人はこの5年の間、たくさんいた。
今、そういう人をあまりTLで見かけないならば、それはもう疲れたからだ、と思っている。もう十分すぎる時間が過ぎた。

そして、理論で殴れる人と、それを理解する気もなく殴り返す人が残っているだけだ。

 

多分、ツイッターは、日々目にしたおもろいことや変なことを共有できればよかったんじゃないかと思う。そういう意味では、日本語ツイッタラーの多くが震災の被害者であり続けているのかもしれない。

 

個人の見解であって、断定調であってもそれが誰にとっても正しいわけでもなく世の中にはいろんな意見があっていい、あなたの意見とは違うかもしれないが私はこう思ってますみたいな注釈いれて終わります。

産婦人科の治療のお話

患者さんに、「先生だったらどうしますか?」ときかれることがある。

医学的にほぼ答えの出ているようなときは、別に私だったらどうするかなんてあんま関係ないけど。と頭の中で思いつつ、「そうすね、こうするかな」というお話ができるのだけど、産婦人科の治療の方向性というのは実に厄介で、今すぐ治療しないとヤバいっす!というものから、総合的に判断して1~2年以内くらいでどうするか決めていきますか、みたいなのんびりしたのまで病状が様々。

筋腫が手術するほどの大きさじゃないけど、30代後半でこれから妊娠したい人。手術したらしばらくは妊活ができない。お産は帝王切開になることが多い。治療しなくても妊娠できるかもしれない。でも治療したら妊娠するのかもしれないけど、もしかしたら妊活できなかった期間の分、卵子の老化が進むからそのせいで妊娠できないかもしれない。100%のお約束はできない。妊娠しなかったのは他にも理由があるかもしれないし。

生理の量がヤバい。夜用ナプキンにタンポン使っても1~2時間しかもたない。どうにかしたいんですけど…。
仕事や家事や日常生活に支障はあるか。学生であればテストや授業に支障はあるか。月経前症候群や、生理痛はどうか。今後の妊娠についてはしたいかしたくないか。年齢や元々他に病気はあるか。
ピルなら生理の量は減ってきっちり出血が始まるので、スケジュールは立てやすい。避妊もできるし月経前症候群にも効果はあるけど、血栓のリスクはある。
IUSという避妊リングの一種も使えるけど、経産婦じゃないと、特に若年だといれるのが痛いかも。
生理止める方法もあるけど、更年期症状が出てしまってつらくなったり、あと治療代がクソ高い。

その他にも、子どもが受験を控えていたり、朝早く起きるから、眠くなるような薬は困る。介護をしているから入院はできない。ピルや抗不安薬は怖いんで、漢方なら…とかいろいろいろいろありすぎて、「私だったらどうしますか?」っていうのはあんま参考にならないんだよね。私はあなたじゃないし、ものすごく時間をかけないとその人のライフスタイルとか大切にしているものとかわからんし。

それよりも、あなたが一番困っているのはどういうことで、どういう治療なら受けてもいいと考えているか。経済状況の問題もあるし。それを主治医に伝えてみていただけるとこれ幸い。そしたら手持ちのカードからいくつか選んでもらえるから。

「ピル推進」「IUS(ミレーナ)推進」とかそういうのはないの。それしか知らない人はカードは一枚しかないけど、あなたがどういう人か知ってから、あなたに合わせた治療をしていきます。それが産婦人科医のお仕事。投薬なしでお話だけして帰るもあり。
なんかたまに「いや全然この人ピルだけすすめてるわけじゃないでしょ」という先生がなぜか「推進派」としてまとめられてたので書いた。

じゃ、また気が向いたらブログ書きますわ


出会い系サイトで男を渡り歩く女たち

産婦人科で仕事をしていると、たくさんの社会的な問題を抱えた妊婦がやってくる。今日は、男性を渡り歩く妊婦について。

初めて外来に来たときはすでに妊娠20週以上。今までどこの産婦人科にもかかっていない。上に子どもが数人いるが父親は全部別。パートナーという男性と来たが、今お腹の中にいる赤ちゃんの父親もまた違う男性。

そもそもパートナーと言っても、知り合って数ヶ月。子どもたちを連れてパートナーの家に転がり込む。その家族も一緒に住んでいるが、特に交流を深めている様子もなく、ただ同居しているだけ。いきなり転がり込んできた子持ちの女性、しかもどこの男性の子を身ごもっているのかわからない妊婦をどう思っているのかさえわからない。
彼女のような相手を変え、住居不定のまま生きている女性はセックスが好きなのか?貞操がない?
違う。

男性を渡り歩き、寄生するかのように生活するのは、彼女なりのサバイバル。そういったケースでは、親を含めた家族の姿が一切見当たらない。虐待があって家を出たのか、ただ放任なのか、何もわからないし女性の方でも実家を頼らない。連絡さえとっているのかわからない。一般的には、人として、全くほめられた生き方ではないだろうと思う。

では、彼女はどうするべきだったのだろうか。福祉に頼れ、仕事を探し、働いて住居をかまえ、子育てをするべき、というのは「正論」。
なんのスキルも資格もなく、情報を得る術を知らず、妊娠に関する知識もなかったら?妊娠しても中絶するお金もなく、相手は連絡が取れなかったら?LINEをやりとりするくらいの「友達」はいても、本当に頼れる人が誰もいなかったら?
ホームレスになる、ネットカフェで生活する、あるいは死ぬ?
きちんと考えたかどうかは知らない。それができるなら今の状況には陥っていないだろう。男性を渡り歩くのは、それを回避するための彼女なりの方法なのだろう。
そして、出会い系サイトやLINEは恋をしたいんじゃない。そんなところに白馬の王子様がいないことなんて知ってる。そこにカモがいると知っているからネットに接続するだけ。

「女性は女であるというだけで股を開けば生きていけるんだからイージー」というような意見を見ることがある。たしかに、逆パターンはあまり聞かないので、男性で同じような境遇の人と比較するとそうなのかもしれない。
でも、イージーか?自分で自活する能力ある方がよくね?

まぁ、産婦人科医にできることは分娩前から自治体の担当と児童相談所に連絡することくらいしかないんだけど。

あと、何回かツイートもしてるけど、予想外の妊娠をして、どこにも誰にも相談できない人が下記のサイトにすぐたどりつけますように。

予期せぬ妊娠、妊娠を望んでいないのにできちゃった、中高生の妊娠…相談できる場所を調べてみた - うさうさメモ (id:usausa1975 / @usausa1975) http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20130819/p1

これも何回かツイートしてるけど、西原理恵子さんの「男も女も一生稼ごう〜自由であるために」
これも、個人的大絶賛記事ですね。

「お客様の中にお医者さまはいらっしゃいませんか」で手を上げない医者の理由

このまとめや関連するツイート読んでて思ったこととか。→


医療従事者が語る「善きサマリア人の法」立法の必要性と、司法関係者への不信 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/832036 

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか」コールは何回か経験している。
名乗り出る人はそれなりにいると思う。
役に立てることがあるかもしれない。
 
名乗り出ない人もいると思う。
訴えられたら?訴えられなくても世間に晒されたら?
今は乗客としているんであって、仕事じゃないしね?
 
別にどっちがいいというものでもないし、名乗り出ないことで世間様から怒られたり、職業としての怠慢を言われる筋合いはないと思う。
一応おずおずと名乗り出てはいくけど。
 
名乗り出ない気持ちとしては、「人の命を救うのが医者では?つってもこういうときは無償だし、なんでも善意を無料で使うのはアカンでしょ。人を救えば美しい話になるって言われても知らんがな。善意で救命しようとしたけど救えなくて社会からボコボコにされたときは誰か守ってくれるんですか。」つうのはあるよね。まだ日本でそれで訴えられた医者はいないんだけどもさ。
あと、ほとんどトリアージ程度のことしかできることはないと思う。医療機器もマンパワーもないから。
 
一方で、医師側には訴訟や紛争に関して、マスコミや司法、モンスターペイシェントにぬぐいようのない不信感がある。大淀病院という病院で妊婦が脳出血で死亡した事例、マスコミは「6時間放置」「たらいまわし」という見出しで報道したし、「当直医が途中居眠りしていたらしい」という噂があったのを覚えてるし。

不幸な事例のその裏に受け入れ不能な状態があるとか、どういう事情があるのかは報道されない。報道されたとしても医療への不信が植えつけられた後。医師同士の学習会では、「とにかくマスコミには気をつけてください。全てを潰されます」と注意の呼びかけがあったりする。事実どころか関係のない私生活まで暴かれる。日常で「何かあったら訴えてやる」と言われることがある。だから、前述のように、公共交通機関で求めに応じて医療行為をしてその結果で訴訟になった事例は日本では今までないんだけど、ありそうだからやだなっていう心情はわかるし、海外では存在する。

 
あとはすまん、司法のことについて詳しい医者がどれだけいるのかなって問題もある。とかく司法の考え方はわかりづらい上に、自分たちを守ってくれるらしい法がどれだか知らなかったり。そういう、わからない、知らないことへの漠然とした恐怖というものもあると思う。
 
いろいろググってたら調べて発表してる人はいらっしゃった。名乗り出ない理由やそこに横たわる問題などが法律と絡めて論じられていてクッソ長いけど興味深い。
航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査〜よきサマリア人の法は必要か? http://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/04/samaritan/
 
ただし、「JALANAはドクターズキットの公表、訴訟になった際は弁護士費用をもつなど保護を表明」っていうのは両社のサイトを見ただけではどこにも記載なしで不明。あと、気管内挿管セットあったところで、1人で挿管できる医者がどれだけいるのかとは思った。少なくとも私はできない(断言)
 
よきサマリア人の法とかいうのを作ったら訴訟が起こらないのかどうかは知らんけど、今のところ日本でそういう訴訟は起きていない。起こるかもなとは思っているけど。でもどこで医療行為しようが訴えられるときは訴えられるわけで、そのリスクはゼロにはならないのよねしかし。
だからまあ、名乗り出るかどうかは個人の自由だろうし、出なくてもいいんじゃないすか。リスクはどんなにしてもゼロにならないけど、ゼロにならないと行動できない人もいるだろうし、そのへんは理屈だけでどうにもならんところもありますしの。良し悪しとかでもない。ここら辺がまあそうだよなと思うし現実な提案だと思う