出会い系サイトで男を渡り歩く女たち

産婦人科で仕事をしていると、たくさんの社会的な問題を抱えた妊婦がやってくる。今日は、男性を渡り歩く妊婦について。

初めて外来に来たときはすでに妊娠20週以上。今までどこの産婦人科にもかかっていない。上に子どもが数人いるが父親は全部別。パートナーという男性と来たが、今お腹の中にいる赤ちゃんの父親もまた違う男性。

そもそもパートナーと言っても、知り合って数ヶ月。子どもたちを連れてパートナーの家に転がり込む。その家族も一緒に住んでいるが、特に交流を深めている様子もなく、ただ同居しているだけ。いきなり転がり込んできた子持ちの女性、しかもどこの男性の子を身ごもっているのかわからない妊婦をどう思っているのかさえわからない。
彼女のような相手を変え、住居不定のまま生きている女性はセックスが好きなのか?貞操がない?
違う。

男性を渡り歩き、寄生するかのように生活するのは、彼女なりのサバイバル。そういったケースでは、親を含めた家族の姿が一切見当たらない。虐待があって家を出たのか、ただ放任なのか、何もわからないし女性の方でも実家を頼らない。連絡さえとっているのかわからない。一般的には、人として、全くほめられた生き方ではないだろうと思う。

では、彼女はどうするべきだったのだろうか。福祉に頼れ、仕事を探し、働いて住居をかまえ、子育てをするべき、というのは「正論」。
なんのスキルも資格もなく、情報を得る術を知らず、妊娠に関する知識もなかったら?妊娠しても中絶するお金もなく、相手は連絡が取れなかったら?LINEをやりとりするくらいの「友達」はいても、本当に頼れる人が誰もいなかったら?
ホームレスになる、ネットカフェで生活する、あるいは死ぬ?
きちんと考えたかどうかは知らない。それができるなら今の状況には陥っていないだろう。男性を渡り歩くのは、それを回避するための彼女なりの方法なのだろう。
そして、出会い系サイトやLINEは恋をしたいんじゃない。そんなところに白馬の王子様がいないことなんて知ってる。そこにカモがいると知っているからネットに接続するだけ。

「女性は女であるというだけで股を開けば生きていけるんだからイージー」というような意見を見ることがある。たしかに、逆パターンはあまり聞かないので、男性で同じような境遇の人と比較するとそうなのかもしれない。
でも、イージーか?自分で自活する能力ある方がよくね?

まぁ、産婦人科医にできることは分娩前から自治体の担当と児童相談所に連絡することくらいしかないんだけど。

あと、何回かツイートもしてるけど、予想外の妊娠をして、どこにも誰にも相談できない人が下記のサイトにすぐたどりつけますように。

予期せぬ妊娠、妊娠を望んでいないのにできちゃった、中高生の妊娠…相談できる場所を調べてみた - うさうさメモ (id:usausa1975 / @usausa1975) http://d.hatena.ne.jp/usausa1975/20130819/p1

これも何回かツイートしてるけど、西原理恵子さんの「男も女も一生稼ごう〜自由であるために」
これも、個人的大絶賛記事ですね。

「お客様の中にお医者さまはいらっしゃいませんか」で手を上げない医者の理由

このまとめや関連するツイート読んでて思ったこととか。→


医療従事者が語る「善きサマリア人の法」立法の必要性と、司法関係者への不信 - Togetterまとめ http://togetter.com/li/832036 

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか」コールは何回か経験している。
名乗り出る人はそれなりにいると思う。
役に立てることがあるかもしれない。
 
名乗り出ない人もいると思う。
訴えられたら?訴えられなくても世間に晒されたら?
今は乗客としているんであって、仕事じゃないしね?
 
別にどっちがいいというものでもないし、名乗り出ないことで世間様から怒られたり、職業としての怠慢を言われる筋合いはないと思う。
一応おずおずと名乗り出てはいくけど。
 
名乗り出ない気持ちとしては、「人の命を救うのが医者では?つってもこういうときは無償だし、なんでも善意を無料で使うのはアカンでしょ。人を救えば美しい話になるって言われても知らんがな。善意で救命しようとしたけど救えなくて社会からボコボコにされたときは誰か守ってくれるんですか。」つうのはあるよね。まだ日本でそれで訴えられた医者はいないんだけどもさ。
あと、ほとんどトリアージ程度のことしかできることはないと思う。医療機器もマンパワーもないから。
 
一方で、医師側には訴訟や紛争に関して、マスコミや司法、モンスターペイシェントにぬぐいようのない不信感がある。大淀病院という病院で妊婦が脳出血で死亡した事例、マスコミは「6時間放置」「たらいまわし」という見出しで報道したし、「当直医が途中居眠りしていたらしい」という噂があったのを覚えてるし。

不幸な事例のその裏に受け入れ不能な状態があるとか、どういう事情があるのかは報道されない。報道されたとしても医療への不信が植えつけられた後。医師同士の学習会では、「とにかくマスコミには気をつけてください。全てを潰されます」と注意の呼びかけがあったりする。事実どころか関係のない私生活まで暴かれる。日常で「何かあったら訴えてやる」と言われることがある。だから、前述のように、公共交通機関で求めに応じて医療行為をしてその結果で訴訟になった事例は日本では今までないんだけど、ありそうだからやだなっていう心情はわかるし、海外では存在する。

 
あとはすまん、司法のことについて詳しい医者がどれだけいるのかなって問題もある。とかく司法の考え方はわかりづらい上に、自分たちを守ってくれるらしい法がどれだか知らなかったり。そういう、わからない、知らないことへの漠然とした恐怖というものもあると思う。
 
いろいろググってたら調べて発表してる人はいらっしゃった。名乗り出ない理由やそこに横たわる問題などが法律と絡めて論じられていてクッソ長いけど興味深い。
航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査〜よきサマリア人の法は必要か? http://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/04/samaritan/
 
ただし、「JALANAはドクターズキットの公表、訴訟になった際は弁護士費用をもつなど保護を表明」っていうのは両社のサイトを見ただけではどこにも記載なしで不明。あと、気管内挿管セットあったところで、1人で挿管できる医者がどれだけいるのかとは思った。少なくとも私はできない(断言)
 
よきサマリア人の法とかいうのを作ったら訴訟が起こらないのかどうかは知らんけど、今のところ日本でそういう訴訟は起きていない。起こるかもなとは思っているけど。でもどこで医療行為しようが訴えられるときは訴えられるわけで、そのリスクはゼロにはならないのよねしかし。
だからまあ、名乗り出るかどうかは個人の自由だろうし、出なくてもいいんじゃないすか。リスクはどんなにしてもゼロにならないけど、ゼロにならないと行動できない人もいるだろうし、そのへんは理屈だけでどうにもならんところもありますしの。良し悪しとかでもない。ここら辺がまあそうだよなと思うし現実な提案だと思う

産婦人科医としてというより、個人的に内診について思うこと

子宮頸癌で亡くなる人は、年間約3000人。子宮体癌は約1000人。

一方、婦人科検診の受診率は20%程度。進行するまで痛みや体の不調をほとんど感じづらいので、かなり進行してから初めて婦人科を受診する人も。毎年検診だけでも受けておいてくれたらなあ、というのはそこに関わる婦人科医の思っていることだろうと思います。手遅れになった症例を経験すると「どうしてもっと早く来なかったんだ…」という思いが先立ってしまう。

じゃあなんでみんな婦人科検診受けないんだろう?だって年間何千人も死んでるんだよ?自分の体のことでしょ?

うん、そうなんだ。それは正論だと思う。あと、受けない人の大半は今そこに差し迫った危機があるわけじゃないと考えてるからだろうな、とは思う。
病気があれば何かの症状が出てくるでしょ、それから受診でいいのでは?という人もいるし、その他に優先する例えば仕事とか家事とか介護とかそういうのがあったりする。検診のためにそれを後回しにできるか、ほかに代わってくれる人がいるかどうかも受診するには大事なポイントだと思う。

でも、産婦人科医になって、とにかく受診するのに心理的にハードルの高い科だなと。思ったよりもはるかに性的な暴力を受けたことがあったり、すでに別の産婦人科で恐ろしく嫌な思いをしたことのある人が多い。だから、必要があって受診はしているけれども、むちゃくちゃ恐怖心や嫌悪感を伴いながら内診台に乗っている人がいるということ。これは常に頭においておきたい。

そしてまず問診。「性交渉の経験はありますか?」
うっ、なんでこんなこときかれるんだろう…
レイプされたことはあるけど、それ以来男性が怖くてセックスなんてできないけど、これって「経験あり」になるの?なるとして、この後私は何をされるわけ?下半身丸出しにする以外に診察する方法はないんですかい?
「妊娠、分娩歴は?」
…昔したことがあるけどそれについては触れたくないなあ…
というような方もいらっしゃるでしょう。
場合によってはセックスの回数答えなきゃいけなかったり。嫌すぎる。

診察。たいてい下半身裸になるところからスタート。股間のスースー具合が心もとなさすぎでしょ。
内診台最初乗り方わからんし。
えっ、何入れられてるんだっていう器械いれられるし。クスコっていうんですけどね。くちばしみたいな形してて、広げないと奥が見えなかったりもするんですが、そうされると痛いんですよ。しかも冷たいままだったり。

あっ、内診のときよく受ける質問ですが、靴下ははいたままで大丈夫です。

とにかく、超!プライベートすぎるんですよ、産婦人科は。しかも診察はプライベートゾーンをさらさなきゃいけないんですよ?診る方にはその対象物でしかないけど、そこは私のもので、断りなく見せたり触らせたらアカンとこじゃないですか!
私自身、患者として産婦人科の診察を受ける時は、「あー今めっちゃ肛門まで見えてるわー…なぜ私はこんな格好を…」「もうちょい痛くないような配慮を、ちょっとでいいんで!オナシャス!」とウンザリした気持ちで股を開いています。
それを口に出して言えるかっていったら言えない患者がほとんどでしょ。私も虚ろな目で無言ですよ。

いや、必要だからみせるの普通でしょ?っていうのはほんとごもっともなんだけど、じゃあ、そこにみせてもいい信頼関係があるかどうかも大事でしょ。
そこで医療者は「えっ?なんで診察させてくれないの?」的なことで患者を責めるような発言をしてはいけない。そこに信頼関係がないか、なんらかの診察を拒絶する理由があるはずなんですよ。性交渉の経験があるかどうかもそこでは無関係。だってセックスするときは相手との信頼関係というか合意が一応はあるじゃん!

あとは、心ある産婦人科の先生が「自分は」診察のときに細心の注意を払って、丁寧な対応を心がけてます、というのは、すでに嫌な思いをしたことのある人の気持ちはなかなか動かせないわけです。だって、「私」が出会った産婦人科医がものすごく嫌な感じだったら、次もそうかなって思うじゃないですかー!どこに行ったら信頼できる先生に出会えるかは約束されていないじゃん。

「内診台で股を広げたまま放置されていた」「内診のときに怖くて拒否しようとしたら押さえつけられた」
他にも心ない言葉を吐かれたり、産婦人科で嫌な思いをしたことのある人は私たち産婦人科医が想像するよりずっと多いんじゃないかな?
「めげずに信頼できる産婦人科医を探してみて!」
都市部ならまだしも、地方にはそもそもその選択肢さえない。検診は検診車のバスのみとか、質問させてくれない、すると不機嫌になる医者だったり、前述のようにプライベートゾーンをさらしていることへの配慮が全くない医者しか行動範囲にいなかったら?症状も気力もないのに時間とお金をかけて探して遠方の産婦人科受診するかっていう話。

いろんな配慮をしてる先生がいるのはたしかです。自分もやってる「つもり」。
でも、それが伝わってるか、一般的かというとそうじゃないと思います。
だから、受診してっていう啓蒙も大事だとは思うんですけど、同時に患者に嫌な思いをさせないことも医者同士で啓蒙するなりなんなり必要なんだろうなと思ってます。

あと、SNSでときどき気になるけど、なるべく患者を責めるような受け取りにならない文章を綴ることに気持ちをさいたほうがいいと思うんですね。
どうしたって医者と患者は多少のパターナリスティックな関係になりがちです。まあたまにめっちゃ暴言吐いてくる患者もいるけど、それはそれでおいといて、心理的にも対等と実感できる人そうそう多くないのでは?
そんで患者を責めたり怒ってる医者って怖いしいやだなあと思うから、その人の言うことすんなり腑に落ちないじゃないですか。文字だけのコミュニケーションは思うように伝わらないけど、伝わらないかもしれなくてもぞんざいな言葉でいいわけじゃない。限界はあるけど余計に丁寧に。

「思ったこと、わからないこと、不安なこと言って!」と医者は言うけれど、私も患者として診察受けてるときは言いたいことの10%くらいしか言えてないと思います。
「私はいつでもきく準備はできてるよ!」と医者に言われても、そう簡単にできないって。そういうもんでしょ。正論と現実は一致しないことよくあるって。
患者である私が何か発言することで、ムッとしたりする医者もいるじゃないですか。さっきも言ったけど、「私はそうではありません」ていうのは、すでにされたことのある人には説得力があまりないんですよ。
言えないものだから、「他にわからないことやきいておきたいことはありますか?」って質問が最後に必要なんだと思う。

あとは、患者は言いたいこと言えないもんだけど、できればおかしいことについてはどんどん声をあげていただきたいなと思ってます。面と向かって言えないときは、投書も有効です。人格攻撃は受け付けてないんでそこはよろしくお願いします。
同じような種類の人間が集まる集団内にいると、外の世界では非常識であるという感覚が鈍りがちで、「えっ、これがこんなに嫌がられてたのか」ってわからないもんだし、言われて初めてはっとすることもあるんですよね。言われなきゃわかんねえのかよと怒られればそれまでなんですけど。これは別に医者に限ったことじゃないと思うんだよね。

以上、患者として思ってることメインで、医者として思ってることちょっと。
でもまぁ、一生懸命されてる先生には心外な文章であろうことも承知しております。
その努力は称賛した上で、失礼な文章になるかもしれないことは申し訳ないなと思ってます。
患者さんにおかれましては、嫌だろうなとは思うんですけども、承知しておりますけども、できますれば検診受けていただけると幸いで、受けていただけるよう努力していく所存です。